旅のテーマ

日本三古湯とは

有馬、道後、白浜。文献に名の現れる時期が飛び抜けて早い三つの湯である。天皇が三か月滞在し、万葉集に詠まれた湯が、いまも同じ場所で湧いている。

日本三古湯は、兵庫県神戸市の有馬温泉、愛媛県松山市の道後温泉、和歌山県白浜町の白浜温泉を指す。いずれも『日本書紀』や風土記に登場し、6〜7世紀の滞在や行幸の記録が残る。ただし三古湯の顔ぶれは、何を古さの証拠と見るかで変わる。平安時代の『延喜式神名帳』に載る温泉の社を基準にすると、白浜の代わりに福島県のいわき湯本温泉が入る。一般に三古湯と呼ばれるのは前者の有馬・道後・白浜である。

日本三古湯 一覧(北から南へ)

温泉地名 所在地 見どころ
有馬温泉 兵庫県神戸市 六甲山地の北側、標高350〜500mの谷あいに旅館が寄り合う。鉄分と塩分を含み湧出後に赤褐色へ変わる「金泉」と、炭酸やラジウムを含む無色の「銀泉」が湧き、外湯の金の湯・銀の湯で入り比べられる。
道後温泉 愛媛県松山市 松山の市街に接した湯の街。1894年落成の道後温泉本館はいまも現役の公衆浴場で、2019年1月に始まった保存修理を経て、2024年7月に5年半ぶりの全館営業へ戻った。ほかに椿の湯と飛鳥乃湯泉の外湯がある。
白浜温泉 和歌山県白浜町 太平洋に面した南紀の温泉地。古くは「牟婁の湯」と呼ばれ、万葉集にも詠まれた。白良浜の白い砂、波打ち際の岩場にある露天風呂・崎の湯、円月島や三段壁の海岸景観が湯のまわりに集まる。

三古湯と呼ばれる由来と、もうひとつの三湯説

三湯はいずれも、記録に現れる時期が早い。有馬は『日本書紀』に、631年に舒明天皇が三か月ほど滞在したと記され、のちに孝徳天皇も行幸している。道後は『伊予国風土記』の逸文に大国主命が少彦名命のために湯を導いたという話が載り、596年に聖徳太子が訪れたとも伝わる。白浜は「牟婁の湯」の名で、658年の斉明天皇、690年の持統天皇、701年の文武天皇の行幸が記録されている。

古さの物差しは一つではない。平安時代の『延喜式神名帳』には温泉の神を祀る社が十ほど載っており、これを基準にすると三古湯は道後・有馬と、「佐波古」の古名を持つ福島県のいわき湯本温泉になる。いわき湯本の側はこの由緒をもとに、自らを「日本三古泉」と称してきた。白浜を入れる説と入れない説の違いは、どの文献を古さの証拠と見るかの違いである。

日本三名泉との違い

日本三名泉は草津・下呂・有馬の三湯を指し、三古湯と重なるのは有馬だけである。二つの呼び名は選ぶ軸が違う。三古湯は文献に現れる古さで並び、三名泉は室町の禅僧・万里集九と江戸の儒学者・林羅山が優れた湯として挙げたことに始まる。片方は年代、片方は評判の産物といえる。

有馬が両方に入るのは、記録の古さと湯の評判を兼ねているためである。江戸時代に流行した温泉番付でも、有馬は西の最高位である西大関に据えられるのが常だった。

めぐり方のヒント

三か所は兵庫・愛媛・和歌山に分かれる。有馬と白浜が直線で約124km、有馬と道後、道後と白浜はいずれも240km前後あり、瀬戸内海と紀伊水道を挟むため実際の道のりはさらに長い。ひとつの旅でまとめるより、関西・四国・南紀それぞれの旅に組み込むほうが現実的である。

三湯とも外湯があり、宿に泊まらなくても湯には入れる。有馬は神戸市街から電車やバスで行き来でき、金の湯と銀の湯をはしごすれば日帰りでも金泉と銀泉の違いが分かる。道後は松山市街から路面電車で道後温泉駅まで通じ、駅前に本館・椿の湯・飛鳥乃湯泉が歩ける距離で並ぶ。白浜はJR白浜駅からバスで温泉街へ入り、崎の湯は白良浜の南、岬の岩場にある。

湯から出たあとの過ごし方も三湯で性格が違う。有馬は坂と路地の温泉街、道後は本館を中心にした商店街、白浜は海岸線である。滞在の組み立てはこの違いに合わせたい。

よくある質問

Q. 日本三古湯の覚え方は。

有馬・道後・白浜の三つで、いずれも西日本にある。有馬は神戸市の六甲山地の裏側、道後は松山市の市街、白浜は紀伊半島の南西岸で、瀬戸内海と紀伊水道を囲むように離れて位置する。海に面するのは白浜だけで、有馬は山あい、道後は平地の街なかにある。

Q. 道後温泉本館はいまも入浴できるのか。

できる。2019年1月に始まった保存修理のあいだも一部の浴室で営業を続け、2024年7月11日に5年半ぶりの全館営業へ戻った(工事全体の完了は同年12月)。本館のほかに椿の湯、飛鳥乃湯泉の外湯があり、混み合う時期はこちらも選べる。

Q. 白浜温泉は静岡や千葉の白浜と同じ名前だが。

同じ「白浜温泉」の名を持つ温泉は静岡県下田市と千葉県南房総市にもある。三古湯に数えられるのは和歌山県白浜町の温泉で、南紀白浜温泉とも呼ばれる。

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