旅のテーマ
日本三大酒どころとは
白壁と焼杉の蔵が続き、仕込みの季節には米を蒸す匂いが通りに流れる。灘、伏見、西条。日本三大酒どころと呼ばれる三か所は、いずれも駅から歩ける範囲に蔵が集まっている。
日本三大酒どころは、兵庫県の灘、京都市伏見区の伏見、広島県東広島市の西条を指す。日本三大銘醸地とも呼ばれる。清酒の生産量では灘が全国で最も多く、伏見が続く。三か所に共通するのは、仕込みに使える水が近くで湧き、酒を運び出す港や街道に恵まれていたことで、それぞれ性格の違う酒を育ててきた。
日本三大酒どころ 一覧(東から西へ)
| 酒どころ名 | 所在地 | 見どころ |
|---|---|---|
| 伏見(酒蔵) | 京都府京都市伏見区 | 濠川沿いに白壁の蔵が並ぶ京都の酒どころ。桃山丘陵からの伏流水は灘に比べてやわらかく、きめ細かな酒になる。月桂冠大倉記念館やキザクラカッパカントリーが公開され、蔵の裏手を十石舟が進む。 |
| 灘(灘五郷) | 兵庫県神戸市東灘区 | 西宮から神戸へ、海沿いに今津・西宮・魚崎・御影・西の五郷が並ぶ。天保11年に見出された硬水の宮水が発酵を力強く進め、腰のある辛口を生む。清酒の国内生産量のおよそ4分の1を占め、蔵の資料館が各郷に点在する。 |
| 西条(酒蔵) | 広島県東広島市 | JR西条駅の南に7つの蔵が集まる酒蔵通り。赤煉瓦の煙突となまこ壁が数百mのあいだに連なる。明治期に三浦仙三郎が軟水でも安定して醸せる方法を確立し、広島の酒の評価を変えた。秋には酒まつりが開かれる。 |
水が酒の性格を分ける
清酒は重さの8割ほどが水である。仕込み水に含まれるカリウムやリンは麹菌と酵母の栄養になるため、ミネラルの多い硬水では発酵が勢いよく進み、少ない軟水ではゆっくり進む。同じ米、同じ造りでも、水が違えば別の酒になる。
灘の宮水は硬度が高い。天保11年(1840年)、西宮と魚崎の両方で酒を造っていた櫻正宗六代目の山邑太左衛門が、同じ造り方でも西宮の水を使った酒のほうがよいことに気づいて見出したと伝わる。発酵が力強く進むぶん、締まった辛口になり「男酒」と呼ばれた。対する伏見の水はやわらかく、発酵が穏やかに進んでまろやかな「女酒」になる。直線で50kmほどしか離れていない二つの産地が、水だけで反対の性格に振れているのが面白い。
軟水醸造法が広島の酒を変えた
広島の水は軟らかく、かつては発酵が進まず腐造しやすい土地と見られていた。これを覆したのが安芸津の酒造家・三浦仙三郎である。失敗を重ねながら仕込みの温度と手順を組み直し、1897年(明治30年)に軟水でも安定して醸せる「軟水醸造法」をまとめ、翌年に『改醸法実践録』として公開して技術を広めた。
硬水の灘が辛口だったのに対し、軟水で醸した広島の酒はやわらかく甘みのある味わいで、当時の市場に新しい選択肢をもたらした。西条で竪型精米機が生まれたこととあわせ、東広島市域は吟醸酒のふるさとを名乗っている。灘・伏見が水に恵まれて発展したのに対し、西条は不利な水を技術で克服して並んだ産地といえる。
めぐり方のヒント
灘と伏見は直線で約53kmと近く、大阪をはさんで同じ旅にまとめやすい。西条は伏見から約280km、灘から約230km離れており、山陽方面の旅に別に組み込むことになる。三か所とも最寄り駅から徒歩圏で、灘は阪神電車の魚崎や住吉、伏見は京阪の中書島や近鉄の桃山御陵前、西条はJR西条駅がそれぞれ起点になる。
試飲があるので、車は避けて電車で行きたい。蔵の資料館は年間を通して開いているが、実際に仕込みが動くのは冬である。米を蒸す匂いや蔵人の出入りまで含めて味わいたいなら、寒い時期を選ぶとよい。
見学の可否と予約の要否は蔵によって違う。資料館として常時公開している蔵、予約制で仕込み場を見せる蔵、直売所だけを開けている蔵が混在するので、訪ねる蔵を決めたら公式情報で確認しておく。西条の酒まつりのように、年に一度大きく混み合う日もある。
よくある質問
Q. 日本三大酒どころの覚え方は。
東から順に伏見(京都府)・灘(兵庫県)・西条(広島県)。伏見と灘は50kmほどしか離れておらず、西条だけが西へ大きく離れる。この距離の差で捉えると並びを間違えにくい。三大銘醸地という呼び方も同じ三か所を指す。
Q. 男酒・女酒とは何か。
硬水で仕込んで発酵が力強く進む灘の酒を「男酒」、やわらかい水で穏やかに醸す伏見の酒を「女酒」と呼び分けてきた慣用表現である。品質の優劣ではなく、酒質の傾向を対比した言い方にあたる。
Q. 日本酒の生産量が最も多いのはどこか。
灘で、清酒の国内生産量のおよそ4分の1を占める。都道府県別でも兵庫県が最も多く、京都府が続く。三大酒どころのうち二つが上位を占めていることになる。
Q. 酒蔵は誰でも見学できるのか。
蔵によって異なる。資料館として常時公開している蔵がある一方、予約制の蔵や、製造区域には立ち入れない蔵もある。仕込み期は衛生管理のため見学を受け付けない場合もあるので、事前に確認しておきたい。
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